顎関節症治療

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顎関節症治療

  • 監修医師:島田 淳 しまだ あつし
  • 医療法人社団グリーンデンタルクリニック 理事長
  • 東京歯科大学スポーツ歯学研究室 非常勤講師
  • 神奈川歯科大学付属病院 かみ合わせリエゾン診療科 非常勤講師
  • 日本顎関節学会 理事
  • 神奈川歯科大学臨床教授

治療について(顎関節症に対する治療の考え)

顎関節症と一口に言っても何を原因とした顎関節症かで対応が異なります。また同じような症状を示すものでもその背景にあるもの(生活習慣や生活環境)により対応が異なります。ストレスなどにより症状は変化するもといわれています。そのような意味では、顎関節症は、患者さん一人一人に合ったオーダーメイドの治療が必要であるわけです。

ただ、現在の歯科界においては、インプラントや審美歯科などに関心が集まり、顎関節症や口腔顔面痛などには、あまり目が向けられていないのが現状です。歯科疾患は齲蝕、歯周病など歯科医師にとっても、患者さんにとってもわかりやすい症状がほとんどで、診断よりもどちらかというと技術が主体の医療となっています。技術が良くなければいけないのは当然のこととしても、歯科医師は、いかに上手く歯を作っていくかということに目が行き、疾患に対して深く考えるということに慣れていないのかもしれません。

歯科での治療法

薬物療法

痛みが強い場合には、痛み止めなどを処方しますが、顎関節症のほとんどは、何もしないときの痛みはないので、薬を使うことは少ないです。ただ、咀嚼筋の血の流れが悪く、硬くなり痛みが出ている場合などは、葛根湯などの漢方が有効な場合もあります。

理学療法

理学療法では、セルフケアが当然一番重要ですが、自分で行う事には限界がありますので、歯科医師の方でも、血流が良くなり、運動機能が改善するよう理学療法を行います。理学療法には物理療法と運動療法があります。

1)物理療法

引用元:顎関節症がわかる本(出版社:(一社)口腔保健協会)

機械などを用いて、患部を温めたり刺激することで血流を促し、痛みや運動機能の改善を図ります。主に低周波治療器による電気刺激法やレーザーを用いた治療があります。

2)運動療法

引用元:顎関節症がわかる本(出版社:(一社)口腔保健協会)

歯科医師が、自分の手指を使って、運動機能の障害が起きている筋肉や顎の関節の運動機能、特に顎の関節の動く範囲(関節可動域)の改善を目的として行われます。

症状に応じて歯科医師の方で、適切な手技を選択し行います。急にズレて引っかかってしまった関節円板の引っかかりを外す方法、痛んでいる筋肉のマッサージ療法、ストレッチ療法があります。症状が軽い場合には、運動療法を行うことで、すぐに口が開きやすくなったり、痛みが軽くなったりします。

また、患者さん自身に行ってもらう運動療法は、患者さんの症状に合わせて行う必要があるため、検査の結果を十分考慮して、適切な運動を指導させていただきます。

スプリント(ナイトガード)療法

起床時の痛みが強く、睡眠時の歯ぎしり、くいしばりが関係していると思われる場合、セルフケアだけでは症状が改善しない、あるいはよりセルフケアを効果的にする意味で用いられている治療法です。

基本的には、起きているときには、意識してセルフケアを行うことで症状は改善されますが、睡眠時には当然セルフケアはできません。そこで寝ている間にせっかくセルフケアで改善した状態が戻ってしまわないように、顎を保護する意味でスプリントを用いる事が一般的です。

引用元:顎関節症がわかる本(出版社:(一社)口腔保健協会)

お口の型を取ってスプリントというマウスガードのような装置を作ります。

写真のように平らな面で下の歯列とかみ合うように調整するのが一般的ですが、睡眠時無呼吸症候群の人は、症状が悪化することがあるのと、顎を後ろにして咬みしめる人には、顎が後ろに下がらないような装置を作りますが、これにはかなり熟練が必要なので、一般の歯科医師には難しいと思います。

咬み合わせの治療

顎関節症は、顎関節と咀嚼筋の問題が解決すれば咬み合わせの治療が必要ない場合がほとんどですが、中には顎関節症の症状が消失した後に大きく咬み合わせが変わってしまう場合や、咬み合わせの治療を並行して行わないと顎関節症症状が治らない場合もあります。

そのような場合は、咬み合わせの検査を行い、咬み合わせの診断をした後、咬み合わせの治療を行います。ただ、咬み合わせの治療は、後戻りできないので、患者さんと相談し了解が得られてから行うとともに、咬み合わせの治療の前には、スプリントにより、本当に咬み合わせの治療を行った方が良いかみることもあります。

咬み合わせの治療は、少し歯を削ったり足したりする治療から、被せてある歯を外し、新しく歯を作る大がかりな治療までありますが、患者さんそれぞれ状態が異なるので、十分に相談を行った後に行います。

外科治療

関節の中の炎症が取れないことが問題の場合には、薬を注射して関節の中を洗ったり、内視鏡を見ながら関節の癒着をはがしたりします。

ただ外科治療は、設備がないとできないので大学病院などを紹介することになります。しかし、現在では、顎関節症で外科治療が必要なのは、以前の数パーセントとなっていて、ほとんどは運動療法などで治ります。