顎関節症とは

顎関節症

顎関節症とは~顎関節症の正体~

顎関節症という言葉は誰もが聞いたことがあると思います。

「口が開かない」「顎が痛い」「顎が鳴る」という症状が主です。

顎関節症はこれまで、いろいろな原因が指摘されそれに伴い様々な治療が行われてきました。

しかしある人には効いた治療法も、ある人には効かない。効かないだけならまだしも、逆にひどく悪化することもあります


引用元:顎関節症がわかる本(出版社:(一社)口腔保健協会)

顎関節症は基本的に、顎関節と咀嚼筋(顎の筋肉)の病気です。

そして一方で、実は顎関節症は、心身症の一つと言われています。

心身症とは、ストレスなどの心理社会的な要因が、症状の発症や悪化に関係している状態を言います。

つまり、顎関節症の症状が強くなったり弱くなったりする、あるいは治りが悪いことにはいろいろなストレスも関係している場合が多いのです。

また、顎関節症は、顎の筋肉や関節の他に、いろいろな身体の症状がみられることがあります。

これは顎関節症のために身体の様々な症状が出現しているのではなく、例えば線維筋痛症のような他の病気が共存していることによるものではないかと言われています。

ですから、このような場合には顎関節症の治療だけを行っていても良くはなりません。患者さんが訴えている症状の奥底にあるものを注意深く探り、見つけていくことも重要となります。

つまり、顎関節症の正体は、

  • 顎関節・咀嚼筋などの運動器の病気
  • 心身症
  • 他の疾患との共存

と考えられます。

監修医師島田 淳 (しまだ あつし)
医療法人社団グリーンデンタルクリニック 理事長
東京歯科大学スポーツ歯学研究室 非常勤講師
神奈川歯科大学付属病院 かみ合わせリエゾン診療科 非常勤講師
神奈川歯科大学臨床教授

顎関節症の症状

日本顎関節学会では、顎関節症を以下のように定義しています。

顎関節症は、顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節(雑)音、開口障害あるいは顎運動異常を主要症候とする傷害の包括的診断名である。
その病態は咀嚼筋痛障害、顎関節痛障害、顎関節円板障害および変形性顎関節症である。
簡単にいえば、顎関節症の症状とは…

①顎関節や咀嚼筋の痛み

②顎が鳴る

③口が開かない

という症状を示す病気の集まりであり、顎関節症は1つの決まった病気ではないということです。

そこには…
  • 筋肉の問題
  • 顎関節の問題
    ・関節包(関節周囲を覆っている滑膜組織)靭帯
    ・関節円板(コラーゲンとよばれる繊維の塊)の問題
    ・骨の変形

以上がそれぞれ問題となって症状を生じさせています。

ですから顎関節症と言っても、皆同じではなく、

まずどこに問題があるかを診断することが必要です。それでは咀嚼筋、顎関節の問題をみていきましょう。

①筋肉

皮膚をはがして、顎関節症に関係する筋肉だけを取り出した図です。

顎関節症の症状で多いのは①咬筋、②側頭筋、③外側翼突筋、④内側翼突筋、⑤胸鎖乳突筋などです。

この中でも、上下の歯を咬みしめる時に働く筋肉である、咬筋と側頭筋に痛みが出ることが多いです。また、上下の歯をかみしめると、首の筋肉である胸鎖乳突筋が固定されるため、顎関節症ではこの胸鎖乳突筋にも痛みが出ることが多いです。肩こりは、様々な原因があるのですが、顎関節症も、その原因の一つと言えます。

②顎関節

顎関節は耳の前にありますが、関節包という骨膜組織で包まれていて、その上に靭帯があり、上下の関節が離れてしまうのを防いでいます。

③顎が動く仕組み

靭帯、関節包をさらに取ってみると下顎頭という顎の骨とそれが収まっている下顎窩、その間には、関節円板というコラーゲンでできていて、顎が動くときにクッションの役割をする組織があります。

  • 顎関節は他の関節と違い、口を大きく開けた時にはその場で回転するだけでなく大きく開けた時には、下顎窩から外れて前に滑走します。関節円板はこの時、下顎頭と関節の骨(関節隆起)の間に挟まりクッションの役目をします。

⇒これは動く経路が決まっており、ここから外れると脱臼となります。

 

咬みしめや歯ぎしりのような顎の関節に持続的に大きな負担がかかると関節円板はズレてしまいます。

そして口を大きく開けた時にズレていた関節円板が戻りその時に「カクン」というクリック音がします。

※口を閉じてきた時にまたズレてしまうのですが、この時には音が小さいか音がしないことが多いです。

  • 関節円板がズレただけでなく形が変わってしまい骨とくっついてしまう(癒着)と、口を開けようとしても動かなくなった関節円板が邪魔をして口が開かなくなります。ただ口が開かない状態には、後で説明しますが、筋肉が痛くて開かない場合もあり注意が必要です。

ただ口が開かない状態には、筋肉が痛くて開かない場合もあり注意が必要です。

種類

◆「顎が痛い」・・・顎関節症で最も多いのは顎の痛みです。

痛む場所は耳の前の顎関節であったり、顎関節周りの頬やこめかみ(咬筋、側頭筋)などです。

◆「口が開けられない(開口障害)」・・・口が大きく開けられないケースには、以下の状態があります。

・症状

①大きく開けると痛いので開けられない
②痛みはないが大きく開けられない

・経過

①(何かのきっかけで)突然口が開けられなくなる
②口が開けにくい状態から徐々に口が開けられなくなる

このようにそれまで口は開いたのに、何かのきっかけで「突然口が開けられなくなる場合」や「口が開けにくい状態」から始まり徐々に口が開けられなくなる場合など様々なケースがあります。

◆「顎が鳴る」・・・顎を動かした時に音がすることがあります。これを顎関節(雑)音といいます。音がする原因は、先ほどお話ししたように関節円板がズレている場合が多いです。

また、なぜ(雑)なのかというと、本人が気になれば雑音、気にならなければ音ということです。

会社の歯科健診などで、調べると約50%の人に顎関節の音が見られます。

◆「口は開くけど違和感がある」・・・顎に違和感があり、歯科で診てもらったけれども、口は開くので問題ないと言われて納得いかず、何件も歯科を受診する患者さんがいます。現在の顎関節症の考え方では、痛みがなく十分口が開いていて痛みがなければ、顎の音や違和感があっても、治療の対象にはならないとされています。ただ、実際は、このような場合も、しっかりと診断をして治療すれば、違和感が軽減されたり、なくなったりする場合もあるのですが、これを見極めるには、熟練が必要で、治療できる歯科医師は少ないのが現状です。

◆「頭痛や肩こり」・・・顎関節症は、顎関節とそれに関係する筋肉の問題です。といっても実際には、顎関節症の患者さんは、顎の症状の他にいろんな症状を訴えることが多いのも事実です。

これは、他の病気が共存している可能性もありますが、先ほど説明したように、顎関節症のために、頭や首の筋肉に負担がかかり、これが頭痛や肩こりの原因となることがあります。顎関節症に熟練した歯科医師は、顎関節症からくる頭痛や肩こりをみつけ、対応することができます。

これは、他の病気が共存している可能性もありますが、筋骨格系の運動障害として顎関節症を捉えると、正体が見えてきます。

原因

咬み合わせが悪いから顎関節症になる。そう考えられていた時代がありました。

確かに、咬み合わせが原因で顎関節症になることもありますが、咬み合わせと関係なく顎関節症になることがわかっています。そこで現在では、いくつかの要因が積み重なり、顎の関節や筋肉が個人の許容範囲を超えてしまった時に症状が出る多因子病因説が考えられています。

現在の世界的な見解として、噛み合わせと顎関節症とは、関係している場合もそうでない場合もあるとされています。咬み合わせが悪い人も顎関節症になり、咬み合わせを治したことで症状が治ることもありますが、咬み合わせが悪くない人も顎関節症になりますし、咬み合わせが悪い人でも顎関節症にならない人もいます。

顎関節症の原因となる因子をリスク因子と言います。

咬み合わせ、歯ぎしり、咬みしめ、頬杖をつくなどの悪習癖、ストレスなど様々なリスク因子が重なり、個人の許容範囲を超えると顎関節症の症状が発症すると言われています。

ですから、顎関節症治療の基本は、症状と関係しているリスク因子を見つけ出し、改善することで、重なってる積み木の高さを低くして、個人の許容範囲の中に収まるようにすることで、症状の改善することです。


引用元:顎関節症がわかる本(出版社:(一社)口腔保健協会)

顎関節症かなと思ったときの自分での診断方法

もし急に顎が痛くなった場合には、まず症状の状態確認をしましょう。

顎関節症は悪性腫瘍のように致命的な病気ではないので焦らないことです。まず落ち着いて、自分の症状をどんな症状か確認してみましょう。

基本的には、痛みがある場合はまずは安静にすることです。痛みによっては以下のような対応があります。

①何もしなくても痛い場合

顎を動かすと痛みが強くなるかどうか確認してみましょう。何もしなくても痛みが強い、顎を動かしても痛みが強くならないとすると顎関節症ではない可能性があります。早めに病院へ行かれることをお勧めします。また腫れた感じがあるようでしたらやはり早めに病院へ行きましょう。顎関節症は感染症ではないので腫れることはありません。

②何もしなければ痛くない場合

少し口を開けてみましょう。口は開きますか?痛みはどうでしょう?あまり顎を動かさず、食べるのも柔らかいものを食べてなるべく顎に負担がかからないようにしてください。まずは安静にすることです。湿布やマッサージが効果的な場合があります。

③1週間たっても良くならない場合

歯科を受診ください。

④痛くないが口が開かない場合

関節円板がひっかかった可能性があります。ゆっくりと力を入れて口を開けてみましょう。もしカクンと顎がなって口が開くようになったら、ふたたび関節円板が引っかからないように、くいしばったり、硬いものなどを咬まずすこし様子をみて、ゆっくりと口を開ける練習をしてください。またすぐに引っかかり口が開かなくなるようでしたら、早めに歯科を受診してください。

⑤顎が鳴る場合

かなり以前から音がしていた場合で痛みなどなければ通常はそのままでも大丈夫です。最近、音がするようになったり、音が大きくなっているようでしたら、くいしばり等で顎に負担がかかり、関節円板が少しズレたかもしれません。咬みしめたり、硬いものを咬まないように注意してみて、音が大きくなったり、引っかかりが強くなるようなら早めに歯科を受診しましょう。ただし、通常の歯科医師は、様子をみる様に指示するか、スプリントというマウスピース様の装置を作りますが、上手くいけば良くなります。この時、運動療法を正しく指導してくれる歯科医師でしたら、安心して指示に従ってください。

共存する病気(顎関節症の人がなりやすい病気)

顎関節症は、他の病気と共存しやすいとお話ししましたが、顎関節症と共存することが多い病気として次の疾患があります。

・緊張型頭痛         ・自律神経失調症
・過敏性腸症候群       ・線維筋痛症
・逆流性食道炎        ・慢性疲労症候群
・腰痛            ・精神疾患

その中でも代表的な疾患には、繊維筋痛症という病気があります。

繊維筋痛症とは?…全身的慢性疼痛疾患であり、全身に激しい痛みが起こる病気です。
繊維筋痛症の症状は多彩で、その治療領域は、リウマチ科、整形外科、精神科、心療内科、神経内科などに広く顕在しています。痛みが強いと日常生活に支障をきたすことが多く、重症化すると、軽微の刺激で激痛がはしり、自力での生活は困難になります。随伴症状として、こわばり感、倦怠感、疲労感、睡眠障害、抑うつ、自律神経失調、頭痛、過敏性腸炎、微熱、ドライアイなどが伴うこともありますが、その75%は顎関節症を併発しているといわれています。

あなたの症状は本当に顎関節症?

顎関節症と似た症状の病気

顎が痛い、口が開かない、顎が鳴るなどの症状は顎関節症の可能性が高いのですが、顎関節症と同じような症状を示す別の病気はたくさんあります。

たとえば顎関節症かと思ったら歯の痛みだったということもあります。

その中でも、神経痛の一つである舌咽神経痛は、物を噛んだり飲み込んだりするときに、喉や舌の奥、耳の周囲に痛みが出てくるため、顎関節症と間違われることがあります。

当然、顎関節症の治療をしても治りません。

日本顎関節学会では、顎関節症と識別が必要な病気について表に示すように多くの病気を挙げています。
顎関節症と似た病気はこんなにあります。顎関節症と説明されて、長く歯科医院に通院していて顎関節症が治らないときには、別の病気の可能性もありますので、セカンドオピニオンとして、専門医を探して診てもらいましょう。

顎関節症は何科に行けばいいのか?

顎関節症は、咀嚼筋・顎関節など、腰や肩などと同じ運動器の病気です。

ですから整体やカイロなどでも治ることがあります。ただ、顎関節は複雑なため、普通のの整形外科や理学療法士は、顎関節を診ません。顎関節症は、咬み合わせが関係していることがあります。

これは咬み合わせが原因で顎関節症になるということだけでなく、顎関節症になったために咬み合わせが変わってしまったということもあります。咬み合わせを診ることができるのは歯科医師だけですので、顎関節症は歯科の病気といってもいいでしょう。

ただ、顎関節症については、最近ようやく確立されてきたばかりですのでて歯科大学の授業では、そんなに詳しくは教えていません。

また、顎関節症の治療について世界的な声明が出ているのにもかかわらず、自分の考えだけで治療している先生がいるのも事実です。

現在、顎関節症は、自然に治る場合も多いといわれています。

ですから治療は、歯を削ったりするような、後戻りができないような治療(不可逆的治療)ではなく、運動療法やマウスピース様の装置(スプリント)などによる、後戻りができる治療(可逆的治療、保存的治療)が主体となっていますので、自分の症状がどのような状態なのか、どのような治療が必要なのかを担当の先生によく聞いて、納得したら治療してもらってください。

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